生産地から


塩尻市の桔梗ヶ原(ききょうがはら)。標高700mに広がるこの地にブドウが栽培され始めたのが今から125年ほど前の明治23年。そのしばらく後、明治時代の後期から4代にわたりブドウ専業の農家を営むのがここ「カネシチ農園」。今では1.3ヘクタールのブドウ畑に、生食用のブドウのみを栽培している。
「この辺りにまだブドウ畑がそんなには無かった頃、もちろん有名なワイナリーがいくつもできる前。列車から人が降りてきて昭和電工のところに列になって、みんなブドウを買いに来たそうだ」と先代からの話をしてくれたのは、3代目にあたる塩原朝七さん。 「2代目になる親父が今85歳。もう60年も続けてやっている。その経験とこだわりを引き継いで始めてから7年。毎年環境が違うから大変だ」と笑う。
2代目の塩原忠士さんは本格的なブドウづくりのために山梨県勝沼へバイクで通い、ブドウ栽培や害虫対策について先駆的な栽培者や技術指導員の先生に付いて学んだという。そのうち塩尻や松本にも講演に招き、普及に尽力されたそう。

右が3代目、塩原朝七さん。左4代目、塩原義英さん
「温暖化の影響で、ブドウの好適地がどんどん北上している。今は山梨よりも桔梗ヶ原周辺の方がブドウを作る環境で一番良さそうとも言われている。この辺の一番良いところが一日の寒暖差。それで糖度がのると言われているからね。ただこれも何十年かすると、東北の方にどんどん北上していっちゃうかもしれないね」
桔梗ヶ原産のブドウを使ったワインが、近年世界的なコンクールでも金賞を取ることもあり、大手メーカーがワイン用のブドウ畑を増やすなど「桔梗ヶ原」の名前が国産ワインの中でブランド化しつつもある。
「有名な産地のブドウを送ってもらって食べることもあるけど、見た目はとても立派だが甘味ののりがうちとは違っていて、味では勝負できるなと思っている」と自信をのぞかせる塩原さんに、今のブドウ畑を案内してもらった。

この辺のブドウが出荷されるのはまだ1ヶ月以上先。これから秋にかけて大きく育ち、色が付いたり糖度がのってくる。
「これはシャインマスカット。6,000房くらい付けている。今年は粒を大きく作るために粒を抜いてどのくらい伸びるんだろうと試している。だいぶ間引いていて、粒自体が伸びてきた」 シャインマスカットだけは色つきの袋をかけて、粒の色が白っぽくならないように対応しているそうだ。

左は粒を間引いたシャインマスカット 右は間引いてないもの。すでに粒の大きさが違う。

色づき始めたナガノパープル(左)とシナノスマイル(右)
そのほか、幻のブドウと言われている「炎山」、「多摩ゆたか」、「ナイアガラ」、「巨峰」、「ピオーネ」、「ブラックオリンピア」なども生産をしている。
「昔ながらの剪定方法にもこだわっているが、もう一つ「リン酸」を上手に効かせるようにリハーチン農法というのを取り入れて自分のところで肥料を配合している。肥料の三要素の一つで一番効きにくいけれど、糖度がのったり葉が丈夫になるんだ。こう見ると葉っぱが全く違う。触ってもわかるけれどトヨみたいになってしっかりとしている。こういう葉っぱが病気になりにくく、甘いブドウができるんだ。」
肥料の三要素は「窒素」「リン酸」「カリウム」で、それぞれ生育に重要な要素だが、そのうち「リン酸」は多く施しても、作物に吸収されにくいのだそうだ。

シャインマスカットの葉
「我々もまだ勉強中だけど、熊本の方で日本中をまわっているリハーチン農法の指導者に来てもらって、話を聞きながらやっている。親父の代からもう30年くらいやっているけど、効かせるのが難しいリン酸を欲しいタイミングに入れて効かせてる。その代り水を20mmくらい撒いたりしなくちゃいけないけど、美味しい葡萄を追求するために今も勉強はしながらだ」
これだけこだわって甘さを追求したブドウは、できるだけ自分たちの手で売っていきたいとも言う。
「一番糖度が高いのは炎山かな?去年は粒を付け過ぎたってのもあるけど、他の品種もみんな23~24度くらいの糖度にはなる。高いものだと26度くらいになっていた。一般の物に比べると3~4度は高いかと思う。今年は間引きして粒も大きくなり糖度も乗ってくる。リハーチンも去年の2倍くらい作ったから、調整しながら糖度を上げていこうと思う」
周辺には桃などと兼業で行っているブドウ農家が多い中、こだわりを持って専業を続けていることに誇りを持っている塩原さん。数代にわたる経験に加え、毎年新しい取り組みに挑戦し続ける姿勢を、これからも応援をしていきたい。